ターゲットの興味・関心は、おそらくは「いいね!」したページの種類や、場合によっては記事の属性をフェイスブック社のビッグデータ解析技術で分析、数万〜数十万種類に分類した結果を活用して設定することができます。利用者(広告出稿者)側としては、全世界10数億人・日本人2000万人の個人データ、個人の興味・関心や活動についてのビッグデータを元にしたターゲティングを、まずは信頼することになります。そして、試行錯誤によってクリック率や新規「いいね!」数の改善を図りながら、より効果的なターゲット層をとらえるべくシフトを目指し、きめ細かくチューニングしていく。
この広告の費用対効果ですが、数年前の時点でGoogle Adwords広告の60倍良い、という参考数値が米国で出されたように記憶しています。既存のファンの友達を対象にする/はずす、などソーシャルならではの効果のおかげなのか、当初は現在以上に安かったと言われる閲覧単価・クリック単価でピンポイントに狭告できたせいなのか、はたまた、誘導先のフェイスブックページやイベントページ等の作りが良く、内容が充実していたためなのか。個別の評価はなかなか困難です。
しかし、1日100円から出稿でき、自社フェイスブックページに発信する情報を毎日受信してくれるファン(ページ全体へ「いいね!」した人々)を増やす広告を最短1分ほどで手軽に作成、実施できる媒体として既に確固たる地位を築いたと言えるでしょう。
将来、仮にフェイスブック社自身が調子悪くなったとしても、既に企業が知ってしまった「狭告」の概念を継承して発展させ、効果や利便性をより高めたシステムが必ず代替するようになるでしょう。現に、元々ツイッターのクローンとして出発した中国の「微博」(weibo.com)では、音楽配信等の独自機能の開発と並んで効果的なフェイスブックの機能を改善して採用する流れで、昨年夏頃からフェイスブック広告と類似した微博フィード広告をフェイスブック同様、安価に出稿できるようになっています。
ピンポイントにターゲットを選定し、効果測定を繰り返して少しずつ最適な顧客層を探り当てたり、異なる顧客層へ少しずつ巡回しながら展開するキャンペーン(例えば1週間以内に誕生日を迎える***な人々、と指定)を実施可能な「狭告」は、ますます隆盛を誇るようになり、決して廃れることはないでしょう。
顕在層と興味・関心を共有する「潜在層」を見つける!
さて、前回記事の末尾にこう書きました。
かつては、個々のフェイスブックページ単位で、それらのページに「いいね!」している人を対象に広告(いや、もはや、「狭告」と呼ぶべきでしょうか)を打てることを知り、驚きのあまりSocialAd99という広告ターゲティングのためのSaaS(ソフトウエア・サービス)まで開発してしまいました。
SocialAd99は、2011年4月に発表した、フェイスブック上の興味・関心の推定を行う「狭告」ターゲティング・ツールです。フェイスブック社がページの分類カテゴリを未整備だった当時、可能だった次の2つの機能を活かして実現しました。
- フリーワードによる公開クチコミ検索
- 個々のフェイスブックページを指定した広告出稿
アイデアをざっくり書いてみます。まず、ブランド名、商品名、キャンペーン用のキーワードなどをいくつか指定して、フリーワードによる公開クチコミ検索(ウェブ検索エンジン経由)を行います。その結果、数千、数万の公開クチコミが見つかり、その投稿者の基本データのページ情報についても公開されている限りアクセスできるようになります。当人の興味・関心は、どのフェイスブックページに「いいね!」したかでかなり具体的に知ることができます。
2011年初頭、このような仮説を立てました:
【仮説】同様のフェイスブック・ページ群に「いいね!」している人は同様の興味・関心を持っている可能性が高い。特定のブランド名、商品名、キャンペーン用のキーワードなどを既に知っている「顕在層」と同様の興味・関心を持っている人々は、同様のフェイスブックページ群に「いいね!」している。
この仮説に基づいて、ブランド名、商品名、キャンペーン用のキーワードなどをまだ知らないながらも、知れば興味・関心を持ってくれる可能性の高い「潜在層」を、同様のフェイスブックページ群に「いいね!」している人々の中に多く見い出すことができます。下の図はこれを表したものです。
上の例では、当時のauのAndroid搭載スマートフォンの画期的な新製品、IS03というキーワードを記した顕在層を、「氷山の一角」という意味で三角形の頂点に位置づけています。この顕在層が「いいね!」しているフェイスブックページについては、「いいね!」している総人数が分かります。そして、総人数の何%が顕在層として「IS03」を含むクチコミを発信しているかの比率が分かります。この比率の高い順に、広告を見せる対象にしていくのです!
IS03をまだ知らない、あるいは友人やコミュニティに発言をするほどにはIS03が気になっていないと思われる「潜在層」(上図の赤い点)が含まれる濃度・確率が高い、すなわち、広告に反応してくれる可能性が高い、と推定されるからです。
総人数を決め、高反応率ターゲットに広告を見せる
下の図は、当時SaaSとして提供していたアプリ「SocialAd99」のメイン画面です。
「IS03」というワードを含むクチコミ発信者の比率が大きい順に、上からフェイスブックページを並べています。
最上位の会社は、新型スマホを活用したビジネスを行っているのか、ただの偶然か分かりませんが、わずか56人しか「いいね!」していないページであるにもかかわらず、3人も「IS03」と発言していたことがわかります。断トツで高い比率です。
2位のKDDIのページは、いかにも関係者であり、高比率になるのは分かります。以下、新型スマホのニュース発信ページなど、なるほどと納得できる、多人数が購読するページや、一見関係なさそうなページが下へと続きます。
このメイン画面の操作ポイントはただ一つ。フォームに、ターゲットとする人数を入力するだけです。ここでは1万人と指定し、それに近い9691人が広告ターゲットとなったことを示しています。この際、原則として上位から、すなわち顕在層の比率が大きいページから順番に、その「いいね!」数を加算していきます。1万人に近い数字になったところ、ボーダーラインで急に大人数になってしまった場合は、そのページを飛び越えて比較的少人数の下位のページを採用し、指定人数に近づけます。
これは肉屋さんで、購入したい量が「500g」ならそれに近づくように肉片を取捨選択し、正確なグラム数489gとその金額、バーコードを印字したシールを貼り付けるような感じでしたので、「お肉屋さんアルゴリズム」と呼んでいました。
その後は、基本的にこの画面の指示通りに広告出稿します。CVRというのは、出稿した場合に実際に反応のあった率をフィードバックする欄で、この結果に応じてランキングを再調整する準備をしていました。
「既存の広告ビジネスモデルの破壊」というアキレス腱
SocialAd99は2011年4月15日の発表時、OEM供給先のサイバーエージェントのプレスリリース「意味解析型広告ターゲティングツール」が株式情報系メディアに大きく取り上げられ、株価が上昇した主因として記載されました。
そして2011年夏、幕張で開催されたInterep2011に出展し、見事、ベンチャー部門のグランプリを獲得しました。この写真は、審査委員長の村口和孝さん(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)代表)から、副賞のガラスの盾を私が授与されている様子を撮影した記念写真です。ちなみに村口さんは、あのディー・エヌ・エー(DeNA)が開発に数十億円を費やし、さらに追加投資を必要とした時に、ただ一人それに応じて巨額のキャピタルゲインを得た伝説の投資家です。
しかしながらその後、SocialAd99は事業としてうまく離陸させることができませんでした。後半工程の、広告出稿自体を自動化するためのAd APIの利用が当時、米国の数社にしか許諾されておらず、米国フェイスブック副社長がシンガポールから来日した機会などに折衝するも、どうものらりくらりといった感じで、日本の小さなベンチャーのアイデアを評価して利用許諾という快挙を勝ち取ることはできませんでした。
出稿作業自体は全体の作業量、計算量に比べれば微々たるものなのに、という忸怩たる思いを抱えつつ営業を続けましたが1年少々で断念。振り返ってみると、より本質的な理由は、ソーシャル広告が手間をかければかけるほど広告出稿代行手数料(20%が相場)が下がってしまう、という点にありました。
すなわち、広告代理業の伝統的な手数料ビジネスモデル自体を否定・破壊し、それに取って代わるビジネスモデルを同時に打ち立てなければ成功が覚束ない事業だったということであります。
10年ほど前に、松島克守東京大学教授・ビジネスモデル学会長が「技術革新とビジネスモデル革新は2年おきとか、せいぜい交互に挑戦すべきであって同時に達成するのは至難」と研究発表していたのを思い出します。もちろん資本力など体力をつけ、政治的にもフェイスブック米国本社に日参する勢いで立ち回り(アイデアだけ食べられてしまうリスクもあったわけですが)、「広告」を「狭告」にして費用対効果を向上させた対価を納得ずくで喜んでお支払いいただくビジネスモデルを浸透させる力があれば、成功した可能性はあると思います。
とは言え、プラットフォームビジネスの常として、SocialAd99が依拠していた2大機能、
- フリーワードによる公開クチコミ検索
- 個々のフェイスブックページを指定した広告出稿
これらがなくなってしまえばSaaSが成立しなくなる、というアキレス腱は引き続き存在していました。結果から見れば、さらに事業を大きくして大型投資した直後に前提が消滅するような経緯に至らず、良かったのかもしれません。でも、ベンチャー企業としてはそのようなリスクを計算しつつも全く新しい付加価値、事業の創成に果敢に挑戦し続けるべきであることは言うまでもありません。
SocialAd99の貴重な経験を活かして、新世代のプラットフォームにおいて「狭告」の付加価値を高める挑戦、とくにクチコミ文章の意味解析という得意技を活かしていく所存です。提携相手、クライアント企業ともWin-win-winの関係を構築する仕組みを見極めた上で、人と人、人と商品サービスのマッチングを最適化して人々の幸福増大に貢献できるよう邁進してまいりたいと思います。