2015年04月30日

実践! 下町商店街の活性化に「狭告」を活用 〜既にそこにあるビッグデータとの対話(その4)

前回の記事「有望な『潜在顧客』から順に“狭告”を見せる! 〜既にそこにあるビッグデータとの対話(その3)」では、膨大な個人属性、興味・関心プロフィールが顕在層と共通する潜在層にだけ広告を見せるSocialAd99というサービスが開拓した可能性を示しました。

 今回は、前々回記事「超絶ピンポイント! もはや広告ではなく“狭告”だ」で解説したフェイスブック広告出稿の基本を踏まえて、他のアンケート調査結果から得た仮説を併用し、実際にローカルビジネスのフェイスブックページ活性化を行った「東十条銀座商店街」の事例を紹介します。

 実行したのは北村咲子さん。彼女は、法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科の私の講座『ソーシャルメディア論』の今年度受講生です。

 講座の前半には、悩める企業ソーシャル担当者さん中心に7万2000人以上が購読するソーシャルメディアマーケティングラボ(Social Media Marketing Lab.)の編集長・藤田和重さんが特任講師として登壇。企業ソーシャル運用の実際を豊富な事例とともに紹介してくれました。

 以後、私の講義の過程で、自身のフェイスブックページを立てて、広告出稿を行い、それについてのショート・プレゼンを受講生全員にやってもらいながら、講評、アイデア付加などを行いながら進めるという実践的な講義。本番さながら、というよりも本番そのものの真剣勝負です。

コピペでは絶対に対応できないレポート課題

 2週間半の夏期集中講義(火木土の午前2コマずつ)が終盤に差し掛かった頃、成績を付ける必要もあって、次の2つのレポート課題を出しました。

課題1 自分の将来ビジネスの顧客を想定し、広告作成ページと「対話」しながらターゲットを精密化し、なぜそのように設定したかを論述してください。

課題2 そこで採用した広告クリエイティブ(画像と文章)を提示し、それらを見たら、自分の潜在顧客が思わずクリックしたくなる理由を述べてください。また、クリックしてフェイスブックページに移動した時に、納得、満足していただくには、ページにどんなコンテンツや機能(アプリ)が求められるか、2、3挙げてください。


 近年、特に今年になって、大学院のレポート課題や、あろうことか修士論文や博士論文をコピペで出す学生がいる問題が騒がれるようになりました(教育現場は戦々恐々としていますね)。

 数年前までは、知識を問う課題も出していたのですが、その際にも具体的な事例を探してもらう課題では「AやBやCなどの特徴を【持たない】Xについての事例を示し、コメントせよ。」という出題とし、通常ならざるサービス商品についての理解を問うなど工夫をしました。お察しのように、見事に正反対の「AやBやCなどの特徴を【持った】Xについての事例」をウェブ検索で引っ張ってきて、そのページにあった考察らしき文章をそのままコピペしてきた例が過去に1つだけあり、落第点を付けたのを覚えています。

まずは、事業ドメインと「思い」を定義する

 オリジナルな素材と論考が求められる上記2課題では、たとえ一部であろうと、コピペでレポートを作成するのは不可能です。身体を張って、実体験を語り、真剣勝負で議論する講義に対しては、院生側も同じように全力でボールを打ち返してもらわねばなりません。北村さんはどのように答えてきたでしょうか。

 まず、「課題1 自分の将来ビジネスの顧客を想定」のところで、経営者、事業責任者の視点で、事業ドメインと事業への「思い」を記します:

将来のビジネスについて

 私の将来のビジネスは、地域活性化支援と跡取り女性支援との2本柱である。地域活性化の仕事とともに、跡取り女性(事業承継した女性)を対象とした経営者教育のコンサルティングを行う予定である。事業承継した女性は地方に残された女性であることが多い。息子は都会に出たり父親に反発したりすることが多い中、昔であれば「娘婿」に白羽の矢が立つところ、近年は娘自らが事業承継している例が増えている。女性は男性と比べて社会貢献や地域貢献活動に巻き込まれることが多い。それ故に、跡取り女性へのコンサルティングの中には、地域との付き合い方や地域活性化の内容が一部含まれる。別の角度から見れば、地域活性化の中で、跡取り女性支援ということもありうるだろう。

 互いに重なり、シナジーのある2つの柱を明確化した上で、ネガティブととらえられがちな点(地域活動に時間を奪われる)を、ポジティブな活性化の端緒と捉え直すという着眼、発想があります。その上で、その具体的な解決手段を以下のレポート中に記すことが示唆されている、優れたイントロとなっています。

 今回のフェイスブックページの作成は、「東十条銀座商店街」にさせていただいた。それは、後進育成に熱意のある東京都中小企業診断士協会の朝倉久男城北支部長の掛け声に若手診断士総勢10名が集まり、東十条銀座商店街を支援しているからだ。私は平成27年に診断士登録の予定ではあるが、法政大学経営大学院の教育は診断士業界で信頼が厚く評判が良いため、前倒しで参加が認められた。フェイスブックページは、我が商店街にとって時期尚早感もあったが、いいね!などの数字を示すことが商店街店主へのモチベーションにつながると考える。

 大学院に来る前から手がけていたプロジェクトで、診断士の資格取得前に活動を認めさせ、さらに、フェイスブックページの作成とソーシャル広告出稿を今回の『ソーシャルメディア論』講義の中で着手しました。その実績を先行させつつ、情報公開により地域住民と商店街の結束を高めるという戦略を考え、北村さんは本番そのもののフェイスブックページ「東十条銀座商店街」を作りました。

商店街のファンを増やす「オーガニック」な試み

 商店街のファンを増やす方法はウェブサイトへの誘導と同様、「オーガニック」な方法と、広告を活用した方法があります。

 オーガニックは、画像、テキストともに「クリエイティブ」と呼べるような優れたコンテンツを提供し、閲覧した人が思わず友人にも見せたくなるようなバイラル(viral)性を目指すことで、広告を作らずにフェイスブックページへのアクセス数(個々の記事の閲覧数や「いいね!」の数)や、ファン(ページ全体に「いいね!」した購読者)を増やすやり方です。

 商店街ですので、定番の人気商品や名物店主さん(?)、オブジェ、キャラクターなどを巡回して紹介するのが正攻法と思われます。その通りに実施している様子が「東十条銀座商店街」で見て取れます。加えて、頻繁に現場に足を運んで、天候に言及したり、一人称の視点で目に映るものを描写することで、あたかも商店街を歩いているかのような臨場感、現場感を出しています。一方、少し引いた視点で、アンケートによればこんな人々がいらしていた、など居住地に言及する場面もあります。

「川を越えた足立区新田、埼京線十条駅に近い中十条の方々も来てくださっていることが分かりました( ´ ▽ ` )ノ 予想より商圏が広かったです。今後は、みなさまに分かりやすいイラストMAPを作る予定です!」

 この記事を読んだ人が思わず、一緒になって東十条銀座商店街に人を呼び込みたい、という気にさせるような、「内幕披露」のテクニック発揮に、期せずして成功していると思います。「いいね!」数の増加状況を語り、嬉しさを吐露するのも自然体で、読者を同じ側に立たせてしまっている感じがします。しかし、相手の反応を想像し、慮りながら情報の提示の仕方、タイミング、情報量についてしっかりと計算して、満を持して、東十条銀座商店街のウェブサイトを紹介しています。チームによるフェイスブックページの運用事例として、なかなか深いレベルで連携できているように見えます。

 さらに、私の助言もあって(笑)、リサイクルショップで発見した掘り出し物の楽器、100年の歴史がある和菓子屋の饅頭の意外な中身など、蘊蓄系のコンテンツを取り上げたり、食べ物にしてもファッションにしても旬な季節ネタを提示して、足を運んでいただくための一貫した工夫があります。加えて1つユニークなのは、「ラブちゃん」という商店街の犬のキャラクターによる、現在進行形のキャンペーンの進捗報告です。

 フェイスブックページのアイコンがこのわんちゃんなのですが、だいぶ以前から「いる」にもかかわらず、いま一つ認知されていませんでした。そこで、様々なアピールを試みる中で、限られた予算から着ぐるみを制作して、商店街に登場し、面白いポーズや動きをしてみせよう、という企画を自ら率先して定期的にリークしていく旨、宣言してしまいました。

 恐らく、書いている本人が着ぐるみに入って汗をかきかき、商店街を訪れる子供達と握手したりするのではないか。こう想像したのは私だけではないでしょう。それほどまでに、あっけらかんとした、明るい書き手のキャラクターが記事投稿によく表れているからです。

 先日の日曜日、現地を実際に案内してもらいました。神谷コーヒー店で2杯目半額のお替わりをしたり、壁の洒落た洋風のデザイン画が犬を描いたものだ、と発見したりしてきました。各店にも挨拶し、以前変わったオブジェを購入したりした旨、お話をさせていただきました(徒歩圏内に住んでいたのです)。思わず釣り込まれて和菓子、餃子、靴、球根なども購入しかけましたが、電車で移動することを考えて、プレゼント用の購入は和菓子のみにしました。でも超大玉トマト4つで280円とか秋刀魚90円とかの誘惑には勝てず、いろいろ買い足して地下鉄王子神谷駅に向かいました。

アンケートから広告ターゲティングの初期仮説を抽出

 ビッグデータとの対話について書かなくてはいけません。前々回、前回と、フェイスブック広告による興味関心のターゲティング、その画面操作についてなど詳述しましたので、デモグラフィック・データや興味関心によるターゲット絞り込みの一般論については、そちらをご参照ください。

 特に思い出していただきたいのは、初期仮説に基づいてターゲットを絞った後で、広告のクリック率などでその効果を測定し、はかばかしくなければそれを変更、修正して改善を試みるという点です。そのプロセスを加速したければ、違うターゲット向けに同時に2つ以上に分けて広告を出稿し、クリック率等の違いを見るというやり方が可能です。

 偶然性を排除しきれないので、なぜそうなるのか考察したり、実際に「いいね」してくれた人にオンライン・インタビューをしてみるなど、数字だけを頼りにしないことも大切です。

 北村さんをはじめとする支援メンバーは、より良い商店街を目指してアンケート調査を行っていました。

ターゲット設定とその理由

 今回、やってみて分かることがあると思いFacebook広告セットを作成し、実際に広告を出した。ターゲットは、今年3月に実施した商店街交通量調査・来街者調査(同時開催)により、“北区在住、男女両方、35〜44歳、エンターテイメント、スポーツ、趣味、健康、食に対していいね!をしている人”とした。詳細は下記である。

◆調査日
平成26年3月7日(金)、10:00〜18:30、天候 晴れのち曇り
平成26年3月9日(日)、10:00〜18:30、天候 晴れ
7日(金)は午後一時雲が厚くなったが、概ね天候は良好で人通りは多かったものと推測される。

◆調査地点
東十条駅方面のA地点、コモディイイダ近辺のB地点、王子神谷方面のC地点の合計3か所で調査を実施した。



 来街者調査(n=201)では、自宅から来られた方が93%、その他、「病院」「美容室」など他の用事の途中が2.5%、職場からが2.5%となった。アンケート回答者のお住まいは、47.1%(王子神谷1丁目:29.4%、王子5丁目:11.3%、東十条3丁目:6.4%)が商店街近隣に集中していた。また、8位に川を渡った足立区新田が入ったものの、北区の方がほとんどであった。そのため、“北区在住の方”のみを今回の広告ターゲットにした。

 結果的にはシンプルな「北区在住」となりましたが、事前にこれほど綿密に調査した上で広告を見せる対象を決めるケースは少ないのではないでしょうか。上記の意思決定の際に、必ずしも意識化されなかったかもしれない論理を添えて、レポートには次のように講評を入れました:

 「まずコアとなる顧客層を取り込む、という戦略ですね。特に搦め手(豊島区など全くの新規層を開拓すべき特別な理由がない限り)を使うべき必然性がなければ順当と思います。コア層をある程度取り込んだ後は、足立区新田地域の既存顧客の周辺住民が「草刈り場」に近く、大幅顧客増ひいては売上増の鍵を握っている可能性があるということで、ちょっと意外な良さ、バリューや、北区のイメージなどを品良くアピールするような作戦を立て、実施しても良いでしょう。」

 まずは魅力的であること、次に、意外に安い掘り出し物があるということ、ショッピングの散策自体が楽しいこと、自転車があればあまり時間がかからず移動できること、の順に、少数派だった足立区民にアピールする。何ならこれらのイメージを語る広告を、足立区民向け限定で順繰りに掲載していくことで、仮説を検証しつつ商店街への誘導を図っても良いのではないでしょうか。

男女比、年齢構成比をどうとらえるか

 通行量調査によれば、来街者の男女比は平日は女性が58.0%と構成率が高くなっているものの、平日・休日を合わせた商店街全体の来街者性別は女性が全体の53.7%でほぼ男女半数ずつに近くなっている。平日の7038人に対し、休日は9039人(128.4%)と来街者が増加したが、特に男性は平日の153.9%と大きく来街者が増え、休日はほぼ男女同数になっている。

通行量調査「男女比率」

 来街者の年代については、60代以上の高年齢者が31.8%、高校生以下が11.6%の構成率となった。幅広い客層を持ち、ファミリー層も多く来街していると言える。商店街というと高年齢者のイメージが強いかもしれないが、通行量調査では平日・休日とも30代〜50代の購買力のある年代が来街者のメインになっている。通り過ぎるだけで買い物をしないという人へのアプローチを強化すれば、商店街は売り上げの成長余地が多分にあると思われる。そのため、30代〜50代の中からFacebookで検証しやすい“35〜44歳”“45〜54歳”が広告ターゲットの候補に上がった。さらに、ゆるキャラ「ラブちゃん」を今後推してゆくことが決め手となり、小さな子供がいる確率が高い“35〜44歳”をターゲットにした。

通行量調査「年代別来街者数」

 以上に対する私のコメントは、授業中の口頭での報告内容を覚えていたため、次のようになりました:

 「口頭では、この年齢層の、特に女性が、オンラインでないリアルのクチコミのパワーが大きい、というのも理由に挙げていましたね。こちらは実測に基づくものではなく、純粋な仮説ではありますが、せっかくですので、漏らさず、レポートに盛り込みましょう。」

 「実測調査については、その結果が予想通りだったのか、意外だったのか(どう予測と違っていたか)、商店主側にも尋ねておくと良いでしょう。それによって、彼らの認識が改まり、個々の戦略、戦術が改善される可能性があります。」

商店街に対する興味・関心とは

 商店街というと、主に毎日の生活必需品を求めて来街するわけですので、特定の趣味に分化している消費者を細かくセグメント分けをするイメージはありませんでした。今後は、よりきめ細かいターゲティング、隣接商店街との差別化にあたって、趣味性に訴えるべく、特定の趣味を持つ顧客へ特別なメッセージを込める可能性はあるでしょう。しかし、当初は商店の種類、構成、そして下記のアンケート結果から、北村さんは、素直に「食への関心」の高い人を重点ターゲットに選びました。


 東十条銀座商店街は、日常生活に必要な「食」を扱う店舗が多い。商店街の品種構成では、よく買うものとして「鮮魚」「野菜・果物類」「和・洋菓子、パン」が多かった。そのため、「食にいいね!をしている人」をまずはターゲットにした。

 「実際によく買うものだけではなく、「食材調達に便利な商店街」とか「ここへ来るとなんか美味しい感じ」などのイメージ、認知がされているかどうかを調査、推理する。さらに、その現状の強みをさらに強化するのか、弱みを補うターゲティングをするのか、なども具体的に書き下し、意識して広告キャンペーン等を張ることで、今後の様々な施策が有機的に一貫したものとなることでしょう。」

 長くなりましたので、効果測定や、課題2のクリエイティブとその評価については、また次回に続けたいと思います。


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