今回取り上げるのは、単一システムの存在自体がビッグデータ、と言えるフェイスブックです。「単一システム」というのは、あまりに巨大過ぎてバックアップが作れず、保守、検証、実験、改修、機能追加など、ほぼいきなり本番システムで素早く実行しているからで、実際、地球上に分散しつつも唯一無二の存在ということです。
フェイスブックのシステムは実に巨大です。10数億人の個人会員全員が、任意の25MB(メガバイト)のファイルや1GB(ギガバイト)までの動画を無制限にいくつでも即座にアップロードできつつ、あの高速レスポンスを実現しているのですから、データ・ストレージ容量だけをとってみても想像を絶するものがあります。
現時点(米国時間2014年9月26日)までに更新のあった数字を、こちらから、いくつか拾ってみましょう。
企業などが発信するフェイスブック・ページ(旧称ファン・ページ)の総数は5000万。フェイスブック・ページは「第二のホームページ」と言われ、さまざまなアプリを組み込んで、豪華なサイトを作り、多数の一般ユーザーに「いいね!」して会員(購読者)になってもらうものです。大企業の場合はブランドごとにフェイスブック・ページを作ったりするので、重複や未登録(日本産のモノの大多数はまだ未登録ではないでしょうか)による過不足を考えて、ブランド数と商品名の総数が5000万種類というのは結構妥当な数字かもしれません。
ちなみに、「いいね!」数最大のページは、レディ・ガガの6735万件超かと思ったら、もう1ケタ上がありました。Facebook for Every Phoneというフェイスブック・ページで、なんと、「いいね!」数が、5億776万件超です。
各フェイスブック・ページには月平均36回の投稿がなされている、ということから、大規模であるだけでなく、ミクシィなどほかのメディアの企業ページよりもアクティブに使われている状況が見てとれます。平日に1日平均1、2回の更新なら十分に潜在顧客、ファンの関心をつなぎとめ続けることができます。この何倍も多く投稿してしまうと、うるさがられて「いいね!」を解除されてしまう危険性がありますから、ビジネス上妥当な投稿頻度であると言えるでしょう。
いくら反響が大きくとも、それが売り上げにつながらなければ意味がない、という意見もあるでしょう。これに対しては、フェイスブック・ページから自社サイトに誘導された1クリックあたりの平均売上が、1ドル24セントという数字があります。
「第二のホームページ」でありながら、投稿の25%が顧客からの質問で占められることから、ケタ外れに双方向的であることが分かります。企業側からの投稿に対する何らかの反応(いいね!、コメント、シェア)の75%は投稿から5時間以内になされており、本家ウェブサイトに比べてはるかに反応が早く、リアルタイム性に富んでいることが分かります。
このほか、少ない文字数の投稿の方が好評だと示すデータ、飲食店や小売店などのローカルビジネスの顧客の反応の数字、42%のユーザーが具体的な取引・購買に結びつくようなページ体験を希望している等等、フェイスブック・ページについての統計がこちらに豊富に載っています。世界平均や米国の事情と、日本の数字、比率とでは違いもありましょうが、大いに参考にすることはできるでしょう。
フェイスブック・ページに投稿した記事は、ページに「いいね!」してくれたファン全体の数%から10数%の目に触れることが多いようです。写真や動画、記事の質が高く、ウケが良くて、結果として個別記事に「いいね!」を多く稼げれば、さらに多くのファンのタイムラインにサマリー配信されるという仕組みになっているため、正攻法で優れた投稿を継続すべし、というインセンティブとなります。こうした投稿による反響を得る努力は、商品ページ等に誘導するためウェブにおける検索順位を上げる努力と相似しているため、「オーガニック(organic)」な効果と呼んでいます。
オーガニックと対比されるのは、広告です。ウェブ検索における検索連動広告は、何らかの目的を持ったウェブページへの誘導を行うものですが、フェイスブック広告の場合、
- フェイスブック・ページ自体への誘導
- フェイスブック・ページ内の特定記事(キャンペーン情報ほか)への誘導
- イベントページへの誘導
- 一般ウェブページへの誘導…
このほか「広告を作成」の緑のボタンを押すと、図1の画面が出てきて、アプリのインストールや、クーポンの利用、動画の再生を促す、などの直接アクションを起こさせるためのフェイスブック広告のバリエーションがあることが分かります。
広告ターゲットを詳細に絞り込む
広告作成の詳細はスキップして、どんなフェイスブック・ユーザーをターゲットとして広告を見せていくか、という核心部分を見てみましょう。フェイスブック・ユーザーの膨大な個人属性データ、人間関係データ、興味関心データ、行動データを押さえているがゆえに、膨大なターゲティング、潜在顧客属性の絞り込みの可能性があることはお察しいただけると思います。
取りあえず私の会社、メタデータ株式会社のフェイスブック・ページ、“リアルタイムCRM by メタデータ株式会社”全体への「いいね!」を増やすことを目的として、下の画面の状態とし、広告出稿の操作を進めてみます。
この画面の下方には、オーディエンス(広告の視聴者)というセクションがあり、どんな人に広告を見せるかについて、詳細に指定し、絞り込めるようになっています。
一番上から、地域(居住地)、年齢、性別、言語、その他のユーザー層、とあり、基本ユーザー属性を複合的に指定することが可能です。これらは「国勢調査的なデータ」という意味でデモグラフィック・データ、略してデモグラフィック (demographic) と呼ぶことがあります。
日本の場合、地域は市区町村の単位まで指定が可能。米国では郵便番号による、さらに詳細な指定が可能です。市区町村指定時の注意は、ローマ字でないと受け付けてくれないことが多い点です。
年齢は、フェイスブック利用者の下限である13歳から64歳の間の任意の範囲を1歳刻みで、もしくは上限なしを指定できます。性別、言語(日本語、英語(イギリス)、英語(米国)等)、は素直にそのまま指定します。
他属性や投稿から“推定”した属性も
「その他ユーザー層」をクリックし、プルダウンすると、現時点で「交際」、「学歴」、「職歴」、「ファイナンス」、「住宅」、「民族」、「世代」、「子供がいる人」、「政治(米国)」、「ライフイベント」というユーザー属性の種類が出てまいります。
例えば「交際」を選ぶと、「恋愛対象」と「交際ステータス」が出てきます。「恋愛対象」は男性のみか、女性のみか、女性と男性の両方を指定している人を対象とするか、不明としている人を対象とするか、を選ぶことができます。恋愛対象が例えば女性であっても、そのユーザーの性別は男性かもしれないし、女性かもしれないということですね。
「交際ステータス」には、「独身」、「交際中」、「既婚」、「婚約中」、「不明」、「シビルユニオン」、「ドメスティックパートナー」、「オープンな関係」、「複雑な関係」、「別居中」、「離婚」、「配偶者と死別」があります。これらの中には、何らかの意図を持って、属性登録や表示を正直にはしていないユーザーもいますので、そこは割り引いてターゲティングを考える必要があります。
「学歴」中の「学歴(大卒、修士、博士号、他)」、「専攻」は、予想通りというか順当な指定と思われるでしょう。少々、瞠目に値しそうなのが、「学歴」中の「学校」、「大学の在籍期間」という属性です。特定の大学名をいくつか指定して、何々大学と何々大学の卒業生にのみ広告を見せる、という指定が可能なのです。さらにその中で、いつ在籍していたかの年次の指定まで可能。これが、「何々大学出身の貴方へ!」という広告が結構頻繁に表示されるゆえんであります。
学歴とくれば「職歴」。勤務先の会社名、役職、業界を指定することができます。「ファイナンス」は「収入」と「純資産」の指定が可能ですが、なんと、さまざまなほかの属性や、行動、発言(?)から推定する機能だそうです。現時点では米国のみでの機能、ということですが、普及してきたらちょっと物議を醸すことになる予感がします。同様に「住宅」についても、「住宅タイプ」、「住宅の所有」、「住宅の市場価値」、「家族構成」とあり、これらでターゲットにされた、外れた、と万一ユーザーに知られたりしたら炎上の可能性がありそうです。
「ライフイベント」は言葉だけでは意味不明ですが、下記の選択肢を見ればなるほど、と思われます。
「出身地から離れている」、「婚約中(1年未満)」、「婚約中 (3カ月未満)」、「婚約中 (6カ月未満)」、「家族から離れている」、「就職・転職」、「新しい交際関係」、「新婚 (3カ月未満)」、「新婚(6カ月未満)」、「新婚(1年未満)」、「最近転居した」、「近日誕生日」、「遠距離恋愛」
例えば「近日誕生日」という人に絞り、自分へのプレゼントを選んでいそうな人に広告を見せるというのは、年中ターゲットが順繰りに交代、巡回していくこともあり、商品・サービスによっては非常に効果的でしょう。自分へのプレゼント以外にも、その広告で見た商品をアマゾンのウィッシュリストに載せ、家族、近親者、友達 にプレゼントしてもらおう、という発想と行動を促せるかもしれません。
下図のように、ここまで丹念にきめ細かくユーザー属性を絞り込んできましたが、肝心の「趣味・関心」のところまで差し掛かって紙数が尽きました。
かつては、個々のフェイスブック・ページ単位で、それらのページに「いいね!」している人を対象に広告(いや、もはや「狭告」と呼ぶべきでしょうか)を打てることを知り、驚きのあまりSocialAd99という広告ターゲティングのためのSaaS(ソフトウエア・サービス)まで開発してしまいました。次回はその経緯も含めて、現在はどのように、どの程度の興味・関心まで絞り込めるのかなど試行錯誤しながら紹介してまいりたいと存じます。