2015年04月30日

実践! 下町商店街の活性化に「狭告」を活用 〜既にそこにあるビッグデータとの対話(その4)

前回の記事「有望な『潜在顧客』から順に“狭告”を見せる! 〜既にそこにあるビッグデータとの対話(その3)」では、膨大な個人属性、興味・関心プロフィールが顕在層と共通する潜在層にだけ広告を見せるSocialAd99というサービスが開拓した可能性を示しました。

 今回は、前々回記事「超絶ピンポイント! もはや広告ではなく“狭告”だ」で解説したフェイスブック広告出稿の基本を踏まえて、他のアンケート調査結果から得た仮説を併用し、実際にローカルビジネスのフェイスブックページ活性化を行った「東十条銀座商店街」の事例を紹介します。

 実行したのは北村咲子さん。彼女は、法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科の私の講座『ソーシャルメディア論』の今年度受講生です。

 講座の前半には、悩める企業ソーシャル担当者さん中心に7万2000人以上が購読するソーシャルメディアマーケティングラボ(Social Media Marketing Lab.)の編集長・藤田和重さんが特任講師として登壇。企業ソーシャル運用の実際を豊富な事例とともに紹介してくれました。

 以後、私の講義の過程で、自身のフェイスブックページを立てて、広告出稿を行い、それについてのショート・プレゼンを受講生全員にやってもらいながら、講評、アイデア付加などを行いながら進めるという実践的な講義。本番さながら、というよりも本番そのものの真剣勝負です。

コピペでは絶対に対応できないレポート課題

 2週間半の夏期集中講義(火木土の午前2コマずつ)が終盤に差し掛かった頃、成績を付ける必要もあって、次の2つのレポート課題を出しました。

課題1 自分の将来ビジネスの顧客を想定し、広告作成ページと「対話」しながらターゲットを精密化し、なぜそのように設定したかを論述してください。

課題2 そこで採用した広告クリエイティブ(画像と文章)を提示し、それらを見たら、自分の潜在顧客が思わずクリックしたくなる理由を述べてください。また、クリックしてフェイスブックページに移動した時に、納得、満足していただくには、ページにどんなコンテンツや機能(アプリ)が求められるか、2、3挙げてください。


 近年、特に今年になって、大学院のレポート課題や、あろうことか修士論文や博士論文をコピペで出す学生がいる問題が騒がれるようになりました(教育現場は戦々恐々としていますね)。

 数年前までは、知識を問う課題も出していたのですが、その際にも具体的な事例を探してもらう課題では「AやBやCなどの特徴を【持たない】Xについての事例を示し、コメントせよ。」という出題とし、通常ならざるサービス商品についての理解を問うなど工夫をしました。お察しのように、見事に正反対の「AやBやCなどの特徴を【持った】Xについての事例」をウェブ検索で引っ張ってきて、そのページにあった考察らしき文章をそのままコピペしてきた例が過去に1つだけあり、落第点を付けたのを覚えています。

まずは、事業ドメインと「思い」を定義する

 オリジナルな素材と論考が求められる上記2課題では、たとえ一部であろうと、コピペでレポートを作成するのは不可能です。身体を張って、実体験を語り、真剣勝負で議論する講義に対しては、院生側も同じように全力でボールを打ち返してもらわねばなりません。北村さんはどのように答えてきたでしょうか。

 まず、「課題1 自分の将来ビジネスの顧客を想定」のところで、経営者、事業責任者の視点で、事業ドメインと事業への「思い」を記します:

将来のビジネスについて

 私の将来のビジネスは、地域活性化支援と跡取り女性支援との2本柱である。地域活性化の仕事とともに、跡取り女性(事業承継した女性)を対象とした経営者教育のコンサルティングを行う予定である。事業承継した女性は地方に残された女性であることが多い。息子は都会に出たり父親に反発したりすることが多い中、昔であれば「娘婿」に白羽の矢が立つところ、近年は娘自らが事業承継している例が増えている。女性は男性と比べて社会貢献や地域貢献活動に巻き込まれることが多い。それ故に、跡取り女性へのコンサルティングの中には、地域との付き合い方や地域活性化の内容が一部含まれる。別の角度から見れば、地域活性化の中で、跡取り女性支援ということもありうるだろう。

 互いに重なり、シナジーのある2つの柱を明確化した上で、ネガティブととらえられがちな点(地域活動に時間を奪われる)を、ポジティブな活性化の端緒と捉え直すという着眼、発想があります。その上で、その具体的な解決手段を以下のレポート中に記すことが示唆されている、優れたイントロとなっています。

 今回のフェイスブックページの作成は、「東十条銀座商店街」にさせていただいた。それは、後進育成に熱意のある東京都中小企業診断士協会の朝倉久男城北支部長の掛け声に若手診断士総勢10名が集まり、東十条銀座商店街を支援しているからだ。私は平成27年に診断士登録の予定ではあるが、法政大学経営大学院の教育は診断士業界で信頼が厚く評判が良いため、前倒しで参加が認められた。フェイスブックページは、我が商店街にとって時期尚早感もあったが、いいね!などの数字を示すことが商店街店主へのモチベーションにつながると考える。

 大学院に来る前から手がけていたプロジェクトで、診断士の資格取得前に活動を認めさせ、さらに、フェイスブックページの作成とソーシャル広告出稿を今回の『ソーシャルメディア論』講義の中で着手しました。その実績を先行させつつ、情報公開により地域住民と商店街の結束を高めるという戦略を考え、北村さんは本番そのもののフェイスブックページ「東十条銀座商店街」を作りました。

商店街のファンを増やす「オーガニック」な試み

 商店街のファンを増やす方法はウェブサイトへの誘導と同様、「オーガニック」な方法と、広告を活用した方法があります。

 オーガニックは、画像、テキストともに「クリエイティブ」と呼べるような優れたコンテンツを提供し、閲覧した人が思わず友人にも見せたくなるようなバイラル(viral)性を目指すことで、広告を作らずにフェイスブックページへのアクセス数(個々の記事の閲覧数や「いいね!」の数)や、ファン(ページ全体に「いいね!」した購読者)を増やすやり方です。

 商店街ですので、定番の人気商品や名物店主さん(?)、オブジェ、キャラクターなどを巡回して紹介するのが正攻法と思われます。その通りに実施している様子が「東十条銀座商店街」で見て取れます。加えて、頻繁に現場に足を運んで、天候に言及したり、一人称の視点で目に映るものを描写することで、あたかも商店街を歩いているかのような臨場感、現場感を出しています。一方、少し引いた視点で、アンケートによればこんな人々がいらしていた、など居住地に言及する場面もあります。

「川を越えた足立区新田、埼京線十条駅に近い中十条の方々も来てくださっていることが分かりました( ´ ▽ ` )ノ 予想より商圏が広かったです。今後は、みなさまに分かりやすいイラストMAPを作る予定です!」

 この記事を読んだ人が思わず、一緒になって東十条銀座商店街に人を呼び込みたい、という気にさせるような、「内幕披露」のテクニック発揮に、期せずして成功していると思います。「いいね!」数の増加状況を語り、嬉しさを吐露するのも自然体で、読者を同じ側に立たせてしまっている感じがします。しかし、相手の反応を想像し、慮りながら情報の提示の仕方、タイミング、情報量についてしっかりと計算して、満を持して、東十条銀座商店街のウェブサイトを紹介しています。チームによるフェイスブックページの運用事例として、なかなか深いレベルで連携できているように見えます。

 さらに、私の助言もあって(笑)、リサイクルショップで発見した掘り出し物の楽器、100年の歴史がある和菓子屋の饅頭の意外な中身など、蘊蓄系のコンテンツを取り上げたり、食べ物にしてもファッションにしても旬な季節ネタを提示して、足を運んでいただくための一貫した工夫があります。加えて1つユニークなのは、「ラブちゃん」という商店街の犬のキャラクターによる、現在進行形のキャンペーンの進捗報告です。

 フェイスブックページのアイコンがこのわんちゃんなのですが、だいぶ以前から「いる」にもかかわらず、いま一つ認知されていませんでした。そこで、様々なアピールを試みる中で、限られた予算から着ぐるみを制作して、商店街に登場し、面白いポーズや動きをしてみせよう、という企画を自ら率先して定期的にリークしていく旨、宣言してしまいました。

 恐らく、書いている本人が着ぐるみに入って汗をかきかき、商店街を訪れる子供達と握手したりするのではないか。こう想像したのは私だけではないでしょう。それほどまでに、あっけらかんとした、明るい書き手のキャラクターが記事投稿によく表れているからです。

 先日の日曜日、現地を実際に案内してもらいました。神谷コーヒー店で2杯目半額のお替わりをしたり、壁の洒落た洋風のデザイン画が犬を描いたものだ、と発見したりしてきました。各店にも挨拶し、以前変わったオブジェを購入したりした旨、お話をさせていただきました(徒歩圏内に住んでいたのです)。思わず釣り込まれて和菓子、餃子、靴、球根なども購入しかけましたが、電車で移動することを考えて、プレゼント用の購入は和菓子のみにしました。でも超大玉トマト4つで280円とか秋刀魚90円とかの誘惑には勝てず、いろいろ買い足して地下鉄王子神谷駅に向かいました。

アンケートから広告ターゲティングの初期仮説を抽出

 ビッグデータとの対話について書かなくてはいけません。前々回、前回と、フェイスブック広告による興味関心のターゲティング、その画面操作についてなど詳述しましたので、デモグラフィック・データや興味関心によるターゲット絞り込みの一般論については、そちらをご参照ください。

 特に思い出していただきたいのは、初期仮説に基づいてターゲットを絞った後で、広告のクリック率などでその効果を測定し、はかばかしくなければそれを変更、修正して改善を試みるという点です。そのプロセスを加速したければ、違うターゲット向けに同時に2つ以上に分けて広告を出稿し、クリック率等の違いを見るというやり方が可能です。

 偶然性を排除しきれないので、なぜそうなるのか考察したり、実際に「いいね」してくれた人にオンライン・インタビューをしてみるなど、数字だけを頼りにしないことも大切です。

 北村さんをはじめとする支援メンバーは、より良い商店街を目指してアンケート調査を行っていました。

ターゲット設定とその理由

 今回、やってみて分かることがあると思いFacebook広告セットを作成し、実際に広告を出した。ターゲットは、今年3月に実施した商店街交通量調査・来街者調査(同時開催)により、“北区在住、男女両方、35〜44歳、エンターテイメント、スポーツ、趣味、健康、食に対していいね!をしている人”とした。詳細は下記である。

◆調査日
平成26年3月7日(金)、10:00〜18:30、天候 晴れのち曇り
平成26年3月9日(日)、10:00〜18:30、天候 晴れ
7日(金)は午後一時雲が厚くなったが、概ね天候は良好で人通りは多かったものと推測される。

◆調査地点
東十条駅方面のA地点、コモディイイダ近辺のB地点、王子神谷方面のC地点の合計3か所で調査を実施した。



 来街者調査(n=201)では、自宅から来られた方が93%、その他、「病院」「美容室」など他の用事の途中が2.5%、職場からが2.5%となった。アンケート回答者のお住まいは、47.1%(王子神谷1丁目:29.4%、王子5丁目:11.3%、東十条3丁目:6.4%)が商店街近隣に集中していた。また、8位に川を渡った足立区新田が入ったものの、北区の方がほとんどであった。そのため、“北区在住の方”のみを今回の広告ターゲットにした。

 結果的にはシンプルな「北区在住」となりましたが、事前にこれほど綿密に調査した上で広告を見せる対象を決めるケースは少ないのではないでしょうか。上記の意思決定の際に、必ずしも意識化されなかったかもしれない論理を添えて、レポートには次のように講評を入れました:

 「まずコアとなる顧客層を取り込む、という戦略ですね。特に搦め手(豊島区など全くの新規層を開拓すべき特別な理由がない限り)を使うべき必然性がなければ順当と思います。コア層をある程度取り込んだ後は、足立区新田地域の既存顧客の周辺住民が「草刈り場」に近く、大幅顧客増ひいては売上増の鍵を握っている可能性があるということで、ちょっと意外な良さ、バリューや、北区のイメージなどを品良くアピールするような作戦を立て、実施しても良いでしょう。」

 まずは魅力的であること、次に、意外に安い掘り出し物があるということ、ショッピングの散策自体が楽しいこと、自転車があればあまり時間がかからず移動できること、の順に、少数派だった足立区民にアピールする。何ならこれらのイメージを語る広告を、足立区民向け限定で順繰りに掲載していくことで、仮説を検証しつつ商店街への誘導を図っても良いのではないでしょうか。

男女比、年齢構成比をどうとらえるか

 通行量調査によれば、来街者の男女比は平日は女性が58.0%と構成率が高くなっているものの、平日・休日を合わせた商店街全体の来街者性別は女性が全体の53.7%でほぼ男女半数ずつに近くなっている。平日の7038人に対し、休日は9039人(128.4%)と来街者が増加したが、特に男性は平日の153.9%と大きく来街者が増え、休日はほぼ男女同数になっている。

通行量調査「男女比率」

 来街者の年代については、60代以上の高年齢者が31.8%、高校生以下が11.6%の構成率となった。幅広い客層を持ち、ファミリー層も多く来街していると言える。商店街というと高年齢者のイメージが強いかもしれないが、通行量調査では平日・休日とも30代〜50代の購買力のある年代が来街者のメインになっている。通り過ぎるだけで買い物をしないという人へのアプローチを強化すれば、商店街は売り上げの成長余地が多分にあると思われる。そのため、30代〜50代の中からFacebookで検証しやすい“35〜44歳”“45〜54歳”が広告ターゲットの候補に上がった。さらに、ゆるキャラ「ラブちゃん」を今後推してゆくことが決め手となり、小さな子供がいる確率が高い“35〜44歳”をターゲットにした。

通行量調査「年代別来街者数」

 以上に対する私のコメントは、授業中の口頭での報告内容を覚えていたため、次のようになりました:

 「口頭では、この年齢層の、特に女性が、オンラインでないリアルのクチコミのパワーが大きい、というのも理由に挙げていましたね。こちらは実測に基づくものではなく、純粋な仮説ではありますが、せっかくですので、漏らさず、レポートに盛り込みましょう。」

 「実測調査については、その結果が予想通りだったのか、意外だったのか(どう予測と違っていたか)、商店主側にも尋ねておくと良いでしょう。それによって、彼らの認識が改まり、個々の戦略、戦術が改善される可能性があります。」

商店街に対する興味・関心とは

 商店街というと、主に毎日の生活必需品を求めて来街するわけですので、特定の趣味に分化している消費者を細かくセグメント分けをするイメージはありませんでした。今後は、よりきめ細かいターゲティング、隣接商店街との差別化にあたって、趣味性に訴えるべく、特定の趣味を持つ顧客へ特別なメッセージを込める可能性はあるでしょう。しかし、当初は商店の種類、構成、そして下記のアンケート結果から、北村さんは、素直に「食への関心」の高い人を重点ターゲットに選びました。


 東十条銀座商店街は、日常生活に必要な「食」を扱う店舗が多い。商店街の品種構成では、よく買うものとして「鮮魚」「野菜・果物類」「和・洋菓子、パン」が多かった。そのため、「食にいいね!をしている人」をまずはターゲットにした。

 「実際によく買うものだけではなく、「食材調達に便利な商店街」とか「ここへ来るとなんか美味しい感じ」などのイメージ、認知がされているかどうかを調査、推理する。さらに、その現状の強みをさらに強化するのか、弱みを補うターゲティングをするのか、なども具体的に書き下し、意識して広告キャンペーン等を張ることで、今後の様々な施策が有機的に一貫したものとなることでしょう。」

 長くなりましたので、効果測定や、課題2のクリエイティブとその評価については、また次回に続けたいと思います。


タグ:ビジネス
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2015年04月16日

有望な「潜在顧客」から順に“狭告”を見せる! 〜既にそこにあるビッグデータとの対話(その3)

 前回記事「超絶ピンポイント! もはや広告ではなく“狭告”だ  〜 既にそこにあるビッグデータとの対話(その2)」の中で、フェイスブック広告がターゲットを1才刻みの年齢、市区町村単位の居住地、出身校、所属企業・団体などで絞り込み、きめ細かく設定できることを書きました。

 ターゲットの興味・関心は、おそらくは「いいね!」したページの種類や、場合によっては記事の属性をフェイスブック社のビッグデータ解析技術で分析、数万〜数十万種類に分類した結果を活用して設定することができます。利用者(広告出稿者)側としては、全世界10数億人・日本人2000万人の個人データ、個人の興味・関心や活動についてのビッグデータを元にしたターゲティングを、まずは信頼することになります。そして、試行錯誤によってクリック率や新規「いいね!」数の改善を図りながら、より効果的なターゲット層をとらえるべくシフトを目指し、きめ細かくチューニングしていく。

 この広告の費用対効果ですが、数年前の時点でGoogle Adwords広告の60倍良い、という参考数値が米国で出されたように記憶しています。既存のファンの友達を対象にする/はずす、などソーシャルならではの効果のおかげなのか、当初は現在以上に安かったと言われる閲覧単価・クリック単価でピンポイントに狭告できたせいなのか、はたまた、誘導先のフェイスブックページやイベントページ等の作りが良く、内容が充実していたためなのか。個別の評価はなかなか困難です。

 しかし、1日100円から出稿でき、自社フェイスブックページに発信する情報を毎日受信してくれるファン(ページ全体へ「いいね!」した人々)を増やす広告を最短1分ほどで手軽に作成、実施できる媒体として既に確固たる地位を築いたと言えるでしょう。

 将来、仮にフェイスブック社自身が調子悪くなったとしても、既に企業が知ってしまった「狭告」の概念を継承して発展させ、効果や利便性をより高めたシステムが必ず代替するようになるでしょう。現に、元々ツイッターのクローンとして出発した中国の「微博」(weibo.com)では、音楽配信等の独自機能の開発と並んで効果的なフェイスブックの機能を改善して採用する流れで、昨年夏頃からフェイスブック広告と類似した微博フィード広告をフェイスブック同様、安価に出稿できるようになっています。

 ピンポイントにターゲットを選定し、効果測定を繰り返して少しずつ最適な顧客層を探り当てたり、異なる顧客層へ少しずつ巡回しながら展開するキャンペーン(例えば1週間以内に誕生日を迎える***な人々、と指定)を実施可能な「狭告」は、ますます隆盛を誇るようになり、決して廃れることはないでしょう。

顕在層と興味・関心を共有する「潜在層」を見つける!

 さて、前回記事の末尾にこう書きました。

 かつては、個々のフェイスブックページ単位で、それらのページに「いいね!」している人を対象に広告(いや、もはや、「狭告」と呼ぶべきでしょうか)を打てることを知り、驚きのあまりSocialAd99という広告ターゲティングのためのSaaS(ソフトウエア・サービス)まで開発してしまいました。

 SocialAd99は、2011年4月に発表した、フェイスブック上の興味・関心の推定を行う「狭告」ターゲティング・ツールです。フェイスブック社がページの分類カテゴリを未整備だった当時、可能だった次の2つの機能を活かして実現しました。

  1. フリーワードによる公開クチコミ検索
  2. 個々のフェイスブックページを指定した広告出稿

 アイデアをざっくり書いてみます。まず、ブランド名、商品名、キャンペーン用のキーワードなどをいくつか指定して、フリーワードによる公開クチコミ検索(ウェブ検索エンジン経由)を行います。その結果、数千、数万の公開クチコミが見つかり、その投稿者の基本データのページ情報についても公開されている限りアクセスできるようになります。当人の興味・関心は、どのフェイスブックページに「いいね!」したかでかなり具体的に知ることができます。

 2011年初頭、このような仮説を立てました:
【仮説】同様のフェイスブック・ページ群に「いいね!」している人は同様の興味・関心を持っている可能性が高い。特定のブランド名、商品名、キャンペーン用のキーワードなどを既に知っている「顕在層」と同様の興味・関心を持っている人々は、同様のフェイスブックページ群に「いいね!」している。

 この仮説に基づいて、ブランド名、商品名、キャンペーン用のキーワードなどをまだ知らないながらも、知れば興味・関心を持ってくれる可能性の高い「潜在層」を、同様のフェイスブックページ群に「いいね!」している人々の中に多く見い出すことができます。下の図はこれを表したものです。


 上の例では、当時のauのAndroid搭載スマートフォンの画期的な新製品、IS03というキーワードを記した顕在層を、「氷山の一角」という意味で三角形の頂点に位置づけています。この顕在層が「いいね!」しているフェイスブックページについては、「いいね!」している総人数が分かります。そして、総人数の何%が顕在層として「IS03」を含むクチコミを発信しているかの比率が分かります。この比率の高い順に、広告を見せる対象にしていくのです!

 IS03をまだ知らない、あるいは友人やコミュニティに発言をするほどにはIS03が気になっていないと思われる「潜在層」(上図の赤い点)が含まれる濃度・確率が高い、すなわち、広告に反応してくれる可能性が高い、と推定されるからです。

総人数を決め、高反応率ターゲットに広告を見せる

 下の図は、当時SaaSとして提供していたアプリ「SocialAd99」のメイン画面です。

 「IS03」というワードを含むクチコミ発信者の比率が大きい順に、上からフェイスブックページを並べています。

 最上位の会社は、新型スマホを活用したビジネスを行っているのか、ただの偶然か分かりませんが、わずか56人しか「いいね!」していないページであるにもかかわらず、3人も「IS03」と発言していたことがわかります。断トツで高い比率です。

 2位のKDDIのページは、いかにも関係者であり、高比率になるのは分かります。以下、新型スマホのニュース発信ページなど、なるほどと納得できる、多人数が購読するページや、一見関係なさそうなページが下へと続きます。


 このメイン画面の操作ポイントはただ一つ。フォームに、ターゲットとする人数を入力するだけです。ここでは1万人と指定し、それに近い9691人が広告ターゲットとなったことを示しています。この際、原則として上位から、すなわち顕在層の比率が大きいページから順番に、その「いいね!」数を加算していきます。1万人に近い数字になったところ、ボーダーラインで急に大人数になってしまった場合は、そのページを飛び越えて比較的少人数の下位のページを採用し、指定人数に近づけます。

 これは肉屋さんで、購入したい量が「500g」ならそれに近づくように肉片を取捨選択し、正確なグラム数489gとその金額、バーコードを印字したシールを貼り付けるような感じでしたので、「お肉屋さんアルゴリズム」と呼んでいました。

 その後は、基本的にこの画面の指示通りに広告出稿します。CVRというのは、出稿した場合に実際に反応のあった率をフィードバックする欄で、この結果に応じてランキングを再調整する準備をしていました。

「既存の広告ビジネスモデルの破壊」というアキレス腱

 SocialAd99は2011年4月15日の発表時、OEM供給先のサイバーエージェントのプレスリリース「意味解析型広告ターゲティングツール」が株式情報系メディアに大きく取り上げられ、株価が上昇した主因として記載されました。


 そして2011年夏、幕張で開催されたInterep2011に出展し、見事、ベンチャー部門のグランプリを獲得しました。この写真は、審査委員長の村口和孝さん(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)代表)から、副賞のガラスの盾を私が授与されている様子を撮影した記念写真です。ちなみに村口さんは、あのディー・エヌ・エー(DeNA)が開発に数十億円を費やし、さらに追加投資を必要とした時に、ただ一人それに応じて巨額のキャピタルゲインを得た伝説の投資家です。

 しかしながらその後、SocialAd99は事業としてうまく離陸させることができませんでした。後半工程の、広告出稿自体を自動化するためのAd APIの利用が当時、米国の数社にしか許諾されておらず、米国フェイスブック副社長がシンガポールから来日した機会などに折衝するも、どうものらりくらりといった感じで、日本の小さなベンチャーのアイデアを評価して利用許諾という快挙を勝ち取ることはできませんでした。

 出稿作業自体は全体の作業量、計算量に比べれば微々たるものなのに、という忸怩たる思いを抱えつつ営業を続けましたが1年少々で断念。振り返ってみると、より本質的な理由は、ソーシャル広告が手間をかければかけるほど広告出稿代行手数料(20%が相場)が下がってしまう、という点にありました。

 すなわち、広告代理業の伝統的な手数料ビジネスモデル自体を否定・破壊し、それに取って代わるビジネスモデルを同時に打ち立てなければ成功が覚束ない事業だったということであります。

 10年ほど前に、松島克守東京大学教授・ビジネスモデル学会長が「技術革新とビジネスモデル革新は2年おきとか、せいぜい交互に挑戦すべきであって同時に達成するのは至難」と研究発表していたのを思い出します。もちろん資本力など体力をつけ、政治的にもフェイスブック米国本社に日参する勢いで立ち回り(アイデアだけ食べられてしまうリスクもあったわけですが)、「広告」を「狭告」にして費用対効果を向上させた対価を納得ずくで喜んでお支払いいただくビジネスモデルを浸透させる力があれば、成功した可能性はあると思います。

 とは言え、プラットフォームビジネスの常として、SocialAd99が依拠していた2大機能、

  1. フリーワードによる公開クチコミ検索
  2. 個々のフェイスブックページを指定した広告出稿

 これらがなくなってしまえばSaaSが成立しなくなる、というアキレス腱は引き続き存在していました。結果から見れば、さらに事業を大きくして大型投資した直後に前提が消滅するような経緯に至らず、良かったのかもしれません。でも、ベンチャー企業としてはそのようなリスクを計算しつつも全く新しい付加価値、事業の創成に果敢に挑戦し続けるべきであることは言うまでもありません。

 SocialAd99の貴重な経験を活かして、新世代のプラットフォームにおいて「狭告」の付加価値を高める挑戦、とくにクチコミ文章の意味解析という得意技を活かしていく所存です。提携相手、クライアント企業ともWin-win-winの関係を構築する仕組みを見極めた上で、人と人、人と商品サービスのマッチングを最適化して人々の幸福増大に貢献できるよう邁進してまいりたいと思います。

タグ:ビジネス
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2015年04月02日

超絶ピンポイント! もはや広告ではなく“狭告”だ 〜既にそこにあるビッグデータとの対話(その2)

今回取り上げるのは、単一システムの存在自体がビッグデータ、と言えるフェイスブックです。「単一システム」というのは、あまりに巨大過ぎてバックアップが作れず、保守、検証、実験、改修、機能追加など、ほぼいきなり本番システムで素早く実行しているからで、実際、地球上に分散しつつも唯一無二の存在ということです。

 フェイスブックのシステムは実に巨大です。10数億人の個人会員全員が、任意の25MB(メガバイト)のファイルや1GB(ギガバイト)までの動画を無制限にいくつでも即座にアップロードできつつ、あの高速レスポンスを実現しているのですから、データ・ストレージ容量だけをとってみても想像を絶するものがあります。

 現時点(米国時間2014年9月26日)までに更新のあった数字を、こちらから、いくつか拾ってみましょう。

 企業などが発信するフェイスブック・ページ(旧称ファン・ページ)の総数は5000万。フェイスブック・ページは「第二のホームページ」と言われ、さまざまなアプリを組み込んで、豪華なサイトを作り、多数の一般ユーザーに「いいね!」して会員(購読者)になってもらうものです。大企業の場合はブランドごとにフェイスブック・ページを作ったりするので、重複や未登録(日本産のモノの大多数はまだ未登録ではないでしょうか)による過不足を考えて、ブランド数と商品名の総数が5000万種類というのは結構妥当な数字かもしれません。

 ちなみに、「いいね!」数最大のページは、レディ・ガガの6735万件超かと思ったら、もう1ケタ上がありました。Facebook for Every Phoneというフェイスブック・ページで、なんと、「いいね!」数が、5億776万件超です。

 各フェイスブック・ページには月平均36回の投稿がなされている、ということから、大規模であるだけでなく、ミクシィなどほかのメディアの企業ページよりもアクティブに使われている状況が見てとれます。平日に1日平均1、2回の更新なら十分に潜在顧客、ファンの関心をつなぎとめ続けることができます。この何倍も多く投稿してしまうと、うるさがられて「いいね!」を解除されてしまう危険性がありますから、ビジネス上妥当な投稿頻度であると言えるでしょう。

 いくら反響が大きくとも、それが売り上げにつながらなければ意味がない、という意見もあるでしょう。これに対しては、フェイスブック・ページから自社サイトに誘導された1クリックあたりの平均売上が、1ドル24セントという数字があります。

出典:Social Intelligence Report, ADOBE DIGITAL INDEX, Q1 2014

 「第二のホームページ」でありながら、投稿の25%が顧客からの質問で占められることから、ケタ外れに双方向的であることが分かります。企業側からの投稿に対する何らかの反応(いいね!、コメント、シェア)の75%は投稿から5時間以内になされており、本家ウェブサイトに比べてはるかに反応が早く、リアルタイム性に富んでいることが分かります。

 このほか、少ない文字数の投稿の方が好評だと示すデータ、飲食店や小売店などのローカルビジネスの顧客の反応の数字、42%のユーザーが具体的な取引・購買に結びつくようなページ体験を希望している等等、フェイスブック・ページについての統計がこちらに豊富に載っています。世界平均や米国の事情と、日本の数字、比率とでは違いもありましょうが、大いに参考にすることはできるでしょう。

 フェイスブック・ページに投稿した記事は、ページに「いいね!」してくれたファン全体の数%から10数%の目に触れることが多いようです。写真や動画、記事の質が高く、ウケが良くて、結果として個別記事に「いいね!」を多く稼げれば、さらに多くのファンのタイムラインにサマリー配信されるという仕組みになっているため、正攻法で優れた投稿を継続すべし、というインセンティブとなります。こうした投稿による反響を得る努力は、商品ページ等に誘導するためウェブにおける検索順位を上げる努力と相似しているため、「オーガニック(organic)」な効果と呼んでいます。

 オーガニックと対比されるのは、広告です。ウェブ検索における検索連動広告は、何らかの目的を持ったウェブページへの誘導を行うものですが、フェイスブック広告の場合、

  • フェイスブック・ページ自体への誘導
  • フェイスブック・ページ内の特定記事(キャンペーン情報ほか)への誘導
  • イベントページへの誘導
  • 一般ウェブページへの誘導…

 このほか「広告を作成」の緑のボタンを押すと、図1の画面が出てきて、アプリのインストールや、クーポンの利用、動画の再生を促す、などの直接アクションを起こさせるためのフェイスブック広告のバリエーションがあることが分かります。

広告ターゲットを詳細に絞り込む

 広告作成の詳細はスキップして、どんなフェイスブック・ユーザーをターゲットとして広告を見せていくか、という核心部分を見てみましょう。フェイスブック・ユーザーの膨大な個人属性データ、人間関係データ、興味関心データ、行動データを押さえているがゆえに、膨大なターゲティング、潜在顧客属性の絞り込みの可能性があることはお察しいただけると思います。

 取りあえず私の会社、メタデータ株式会社のフェイスブック・ページ、“リアルタイムCRM by メタデータ株式会社”全体への「いいね!」を増やすことを目的として、下の画面の状態とし、広告出稿の操作を進めてみます。


 この画面の下方には、オーディエンス(広告の視聴者)というセクションがあり、どんな人に広告を見せるかについて、詳細に指定し、絞り込めるようになっています。

 一番上から、地域(居住地)、年齢、性別、言語、その他のユーザー層、とあり、基本ユーザー属性を複合的に指定することが可能です。これらは「国勢調査的なデータ」という意味でデモグラフィック・データ、略してデモグラフィック (demographic) と呼ぶことがあります。

 日本の場合、地域は市区町村の単位まで指定が可能。米国では郵便番号による、さらに詳細な指定が可能です。市区町村指定時の注意は、ローマ字でないと受け付けてくれないことが多い点です。

 年齢は、フェイスブック利用者の下限である13歳から64歳の間の任意の範囲を1歳刻みで、もしくは上限なしを指定できます。性別、言語(日本語、英語(イギリス)、英語(米国)等)、は素直にそのまま指定します。

他属性や投稿から“推定”した属性も

 「その他ユーザー層」をクリックし、プルダウンすると、現時点で「交際」、「学歴」、「職歴」、「ファイナンス」、「住宅」、「民族」、「世代」、「子供がいる人」、「政治(米国)」、「ライフイベント」というユーザー属性の種類が出てまいります。

 例えば「交際」を選ぶと、「恋愛対象」と「交際ステータス」が出てきます。「恋愛対象」は男性のみか、女性のみか、女性と男性の両方を指定している人を対象とするか、不明としている人を対象とするか、を選ぶことができます。恋愛対象が例えば女性であっても、そのユーザーの性別は男性かもしれないし、女性かもしれないということですね。

 「交際ステータス」には、「独身」、「交際中」、「既婚」、「婚約中」、「不明」、「シビルユニオン」、「ドメスティックパートナー」、「オープンな関係」、「複雑な関係」、「別居中」、「離婚」、「配偶者と死別」があります。これらの中には、何らかの意図を持って、属性登録や表示を正直にはしていないユーザーもいますので、そこは割り引いてターゲティングを考える必要があります。

 「学歴」中の「学歴(大卒、修士、博士号、他)」、「専攻」は、予想通りというか順当な指定と思われるでしょう。少々、瞠目に値しそうなのが、「学歴」中の「学校」、「大学の在籍期間」という属性です。特定の大学名をいくつか指定して、何々大学と何々大学の卒業生にのみ広告を見せる、という指定が可能なのです。さらにその中で、いつ在籍していたかの年次の指定まで可能。これが、「何々大学出身の貴方へ!」という広告が結構頻繁に表示されるゆえんであります。

 学歴とくれば「職歴」。勤務先の会社名、役職、業界を指定することができます。「ファイナンス」は「収入」と「純資産」の指定が可能ですが、なんと、さまざまなほかの属性や、行動、発言(?)から推定する機能だそうです。現時点では米国のみでの機能、ということですが、普及してきたらちょっと物議を醸すことになる予感がします。同様に「住宅」についても、「住宅タイプ」、「住宅の所有」、「住宅の市場価値」、「家族構成」とあり、これらでターゲットにされた、外れた、と万一ユーザーに知られたりしたら炎上の可能性がありそうです。

 「ライフイベント」は言葉だけでは意味不明ですが、下記の選択肢を見ればなるほど、と思われます。

 「出身地から離れている」、「婚約中(1年未満)」、「婚約中 (3カ月未満)」、「婚約中 (6カ月未満)」、「家族から離れている」、「就職・転職」、「新しい交際関係」、「新婚 (3カ月未満)」、「新婚(6カ月未満)」、「新婚(1年未満)」、「最近転居した」、「近日誕生日」、「遠距離恋愛」

 例えば「近日誕生日」という人に絞り、自分へのプレゼントを選んでいそうな人に広告を見せるというのは、年中ターゲットが順繰りに交代、巡回していくこともあり、商品・サービスによっては非常に効果的でしょう。自分へのプレゼント以外にも、その広告で見た商品をアマゾンのウィッシュリストに載せ、家族、近親者、友達 にプレゼントしてもらおう、という発想と行動を促せるかもしれません。

 下図のように、ここまで丹念にきめ細かくユーザー属性を絞り込んできましたが、肝心の「趣味・関心」のところまで差し掛かって紙数が尽きました。


 かつては、個々のフェイスブック・ページ単位で、それらのページに「いいね!」している人を対象に広告(いや、もはや「狭告」と呼ぶべきでしょうか)を打てることを知り、驚きのあまりSocialAd99という広告ターゲティングのためのSaaS(ソフトウエア・サービス)まで開発してしまいました。次回はその経緯も含めて、現在はどのように、どの程度の興味・関心まで絞り込めるのかなど試行錯誤しながら紹介してまいりたいと存じます。

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