2015年01月24日

なぜ「データと対話」しなければならないか(その1) 富士急「で」出かける? 富士急「に」出かける?

 本連載では一貫して分析のあり方、大切さをテーマとしていますが、「ビッグデータの時代」という言葉を表面的に解釈すれば、大量のデータが溢れているのだな、HDDをはじめとするストレージが必要、重要なのだな、というイメージが湧いてきてもおかしくありません。

 今回は、現状、骨の折れる作業となっている大量のデータ集めに際して、どんなデータをどう集めるか、どう(どんな構造で)溜めるかという課題を論じてみたいと思います。闇雲に、乱暴にやるのでなく、「データと対話」しながら収集量を抑え、検索・収集法を微妙にコントロールして変え、利用目的をある程度は考慮して適切な構造で溜めるべし、という方向性を推奨してまいります。

大容量ストレージの価格、再び低下

 半導体の場合のムーアの法則(集積密度が18〜24カ月ごとに倍になる)に準じて、HDDについてもここ数十年間、一貫して容量増・高密度化が起こり、劇的にコストパフォーマンスは改善されてきました。しかし、数年前のタイの水害で、それがぴたっと止まり、しばらく一定価格で推移してきましたが、ここへ来て競争再開。価格低下と大容量・高密度化が動き始めました。

 Akiba PC HotlineのPCパーツ相場情報は開始以来、好きで眺めていました。先日しばらくぶりに見たところ(5末版)、大容量化・低価格化再開の様子を具体的に実感することができました。

  • ・6TB(テラバイト)のHDDが現実的な価格(3万円台前半)に
  • ・2.5インチの1.5TB 9.5mm厚(PS4内蔵HDDの換装に使える)が1万円を割った
  • ・「HDDを100TB分購入するともれなくPS4をプレゼントされるキャンペーン」

 3つ目のキャンペーンのニュースは、「個人で100TBのストレージ容量を所有する人が普通に出てくる」という想定もさることながら、データのストレージこそが主役(お金を払う対象)であり、PS4、すなわち高性能なコンピュータ本体が「おまけ」とされていることに感慨を覚えます。

 企業向けのディスクアレイや、インテリジェント・ストレージ(データベース機能搭載)の値段は大変高いので、個人としてはピンときませんが、上記のような個人向けストレージの動向から、ビッグデータ、大量データが主役の時代になったのを感じることができます。

データは分析・活用のために収集するもの

 連載初回に掲載した図を再掲します。

「ビッグデータの活用の上流から下流まで 〜情報/データのライフサイクルに即して」

 初回には、現状では下流工程の分析、活用にまだまだ踏み込めていないが、分析、活用こそが大事である、と書きました。上図を下から上に眺めれば、本来は、活用の狙いを定めてから、どんな分析を行うかを考え、設計し、それに合わせて上流のデータ収集、加工にあたるべきことまで示唆されている、と言えるのではないでしょうか。

   ストレージなど、ハードウェアの価格は大きく低下し、業務によってはコスト全体に占める割合が無視できるくらいになってきています。コストに占める割合が大きいのは、データの取得、入手と保存を適切に正しく行い、扱いやすい構造のデータベースに落とすまでの人件費等です。データ内容の過不足、誤り、重複、形式の不統一を調整するデータ・クリーニングの外注費だったり、その支援ソフトウェアの代金だったり、はたまた、なぜか無料で全世界に公開されているデータを購入するための代金だったり。これらの出費も、現状では馬鹿にならないと思われます。

 ここのデータ収集が結局有料で大きなコストがかかるならば、狙いから外れた対象の社外データを無駄に購入するなどという余計な出費をなくし、集めたデータが何度でも有効に活用されるよう運用しなければならないでしょう。以下、データ収集自体を効率よく行うために、「データと対話」すべきことを書きます。

結果を見るまでは、どんな検索式が適切か分からない

 社内データも社外データも、一般に全量を眺めるのは無理ですから、必ず、検索・絞り込みの作業が入ります。このときの検索条件(以下「検索式」と呼びます)をどうしたら良いか。「そんなの最初に決めたキーワードを入れるだけじゃないか」と言う人は、適切なデータ収集を行った実務経験があまりない人だと思われます。

   まずはごく単純に、「商品名」「ブランド名」「地名」等の固有名詞の例を見てみます。

例:「ジョージア」
 広告宣伝が功を奏したようで、缶コーヒーのジョージアのオフィシャルサイトが、Googleでもbingでも検索結果のトップに来ました。缶コーヒーのWikipedia解説ページやFacebookページ、日本コカ・コーラ株式会社のページに交じって、当然ながら上位に、「(米)ジョージア州」についてのページ(Wikipedia、bingマップ)が食い込んできます。

 そして、今回「データと対話」してみて私が初めて知ったのが、次の2つです。

週刊ジョージア
週刊ジョージアは、働く男たちを手のひらから応援するスマホ・マガジンです。グラビアあり、コミックあり、エンタメありと盛りだくさん!月〜日で毎日更新!!

ジョージア魂賞 〜選べ、チームのためのベストプレー〜 | 日本 ...
ファン投票で選ぶベストプレー「ジョージア魂賞」!投票すると毎回豪華賞品が当たるチャンス!今すぐ投票してみよう!! NPB.or.jp 日本野球機構オフィシャルサイト NPBトップ 読売ジャイアンツ 中日ドラゴンズ 東京ヤクルトスワローズ ...

 それぞれGoogle検索のtop 10、bing検索のtop 10に1つずつ見つかりました。

 ツイッターなどで、缶コーヒーについての口コミだけを調べたい、あるいは米国の州についてだけ調べたい、スマホ週刊誌についてだけ調べたい、などの時には検索式を工夫する必要があるな、とすぐにお察しと思います。仮に、100%の精度がほしい、すなわち、取りこぼしもなく、勇み足もない(検索結果に別の意味の「ジョージア」がない)ようにデータ収集しろ、と言われたら結構難しいだろう、とも思われたかと思います。検索結果の2ページ目以降も徹底精査し、「ジョージア」が出てくる文脈の前後に出てくる特徴的な言い回しや記号にも着目して、排除する条件として検索式を長くしていく必要があるからです。

 日本語の「ジョージア」はまだ、英語のGeorgiaよりマシであることは、旧ソ連崩壊の時期に最新情報を英語で見張っていた多くの人が知ったことと思います。“Georgia”と1語、全く同じ綴りで、旧ソ連・中央アジアの「グルジア共和国」のことも意味するからです。もちろん、日本人のほとんどが知らないような商品名、ブランド名が海外で使われているかもしれない。英数字列の言葉は、たとえ日本語を検索しようとしても、社外データを収集する際には常にこのような「同綴り異語」の問題がつきまといます。

多義性問題を解決する「係り受けランキング」

 同じ言葉が違う意味で使われる問題(多義性問題といいます)も厄介で、技術だけでは解決しきれないのが現状です。

例:「富士急」
 え? 何が問題なんだろう? とお思いになった方もいらっしゃるでしょう。

 人間は、文脈や状況に応じて、いとも簡単に言葉の意味を無意識に選び取っているため、何が難しいのか分からないという疑問が湧いてくるのです。

 「富士急」という固有名詞ですが、ざっと挙げただけで3つの違う意味があります。それを、主語-述語や目的語-述語などの係り受け関係でみてみましょう。

A)富士急が・・・急騰
B)富士急で・・・出かける
C)富士急に・・・出かける

 もうお分かりですね。A)は、富士急行株式会社の株のこと(東証9010)、B)は、富士急行線の鉄道路線、C)は富士急ハイランドという遊園地のことを意味します。

 このように、係り受け関係が定まると、意味やテーマが急激に絞り込まれます(完全にではありません)。このため、係り受け関係でランキングするだけで、多義性問題の多くが解決でき、文章のテーマ、例えばお客様の声をアンケート等で調査した結果、自由回答文章に多く含まれるテーマを上位から抽出し、人間によるまとめあげと分析、対策立案へとつなげることができます。

 メタデータ社の製品「アンケート分析Pro」には、同じ係り受けの組み合わせの出現数をクリックすると元記事を瞬時に参照できる機能が搭載されています。前後関係からも重要テキストを選別してまとめて「フルテキスト類似検索」の検索窓に入れると、全体として似た文章を上位から類似度順に並べてくれるので、お客様の声の中で目立ったいくつかのテーマごとに、ほぼ同趣旨の声をおおよそ網羅する作業も非常に短時間で完了します。

 次の図は、昨年の東京五輪決定の前後1カ月に「#東京五輪」を含むツイッターの書き込み数千件に対して、回答者属性と「五輪決定がうれしいか」「2020年に向けて景気は良くなるか」の選択肢回答を付加した疑似アンケートを「アンケート分析Pro」にかけた結果です。自由回答に模したツイート中に 「予」の字を含むものから抽出した係り受け(活用形は基本形に変換)のランキングを示しています。さまざまな想定内の予定の類を差し置いて、超能力少年が2020年の未来都市東京で活躍する大友克洋氏のマンガ「AKIRA」 が、30年前に2020年東京五輪を「予言」していた驚き、というテーマが上位を占めていることが一目瞭然です。

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 ここで、前ページの図で赤く囲った「選手−予定」が面白そうだったので、件数の「3」をクリックし、この係り受けを含む記事を表示させると:

[画像クリックで拡大表示]

 この3件のテキストを全部つないで、検索式として(!)、類似検索の画面に投入した結果が下図です。

[画像クリックで拡大表示]

 3件のうち一つが、データベース全体の中でとりわけ特徴的な(他にあまり出てこない)、選手村の除染をテーマにした書き込みだったため、最上位にその書き込みが来ました。類似度ランキングは、右端の棒グラフと類似度・関連度の数値でご確認ください。

 他の2件が、2位、3位、と続いた後、選手村予定地付近の不動産の売れ行きの記事や、テロ対策、選手村も絡む経済効果、などの記事が続きます。一番下の書き込みは「東京五輪コンドーム戦争」という産経新聞記事の引用です。選手村に絡めて、早くもこんな裏話が出てきたかと苦笑させられました。全産業が色めき立っているかの様子が素早く発見できたのは、この「係り受けランキング」から「類似検索」を連携させた結果ならではの収穫でした。

「分かち書き」に起因する問題も残る

 技術的には順番が前後した形になりますが、表記上の問題で、検索・絞り込み・データ収集で大きなノイズが出てきてしまうことがあります。これは「分かち書き」をしない日本語のような言語で顕著です。下記は実際に困っている状況を目にした例です:

例:GAGA →「誰か【がが】まんしなければ」
  義経 →「資本主【義経】済と社会主【義経】済」

 検索エンジンやデータベースの絞り込みに際して、「気を利かせた」つもりで、異表記に自動展開されてしまうことがあります。GAGA→「がが」など、常識ある社会人ならば、そんな展開は有害無益と分かっていても、ソフトウェアがそのような仕様で動作し、しかも、単語でなく、文字列の一致で処理されてしまうと、上例のようなおかしな検索結果が出てきてしまいます。

 2番目の「義経」問題ですが、実際に、某図書館で老婦人が「義経千本桜」の解説書を見つけようとして、マルクス、エンゲルス、レーニンの著作ばかりがヒットした現場を目撃したことがあります。老婦人は茫然として固まってしまいました。あまりの落差に「機械が壊れている」と思われても仕方がありません。

 この問題の解決には、分かち書きをして単語の切り出しとその基本属性(名詞、動詞、など)を決めた上で単語検索を行い(活用形の文字面が違っていても原則一致させます)、どうしても取りこぼしが出てきた時のために補助的に文字列検索も併用する、というやり方をとる以外には良策はなさそうです。

 分かち書きも、かな漢字変換と同様、永久に精度100%にはならないでしょう。「東京都」→「東京|都 →とうきょうと」なのか、それとも「東|京都 →ひがしきょうと」なのか。前者が多く出てくるだけで、後者でないとは言い切れないことから、人間でも間違えることがあるわけですから。

 次回は、「口パク」や「東京五輪」などの例を手掛かりに、単語切り出しの曖昧さも、同綴り異語の問題も、単語の多義性の問題もクリアしているにもかかわらず、実際にどのイベントに言及しているかの曖昧性があるためにデータ収集にノイズが入る問題を取り上げます。また、100%の精度が望めない(かな漢字変換なんかもそうですね!)時に、どのように実用的な精度を達成するかを評価する指標についてご紹介する予定です。




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2015年01月10日

ビッグデータから「仮説」を掘り出す方法 〜スモールデータの手法も駆使し「発見」への仕組みを作る

前々回、前回と、2014 FIFA サッカーW杯の“ビッグデータ時代”らしさをテーマに書きました。日本が決勝トーナメントに進み、あわよくばベスト4にでも勝ち残っていれば、今回もサッカーの話題となったかもしれません。しかし平均的日本人より相当サッカー好きと思われる私でも、週に1、2度ダイジェストを見て『ドイツのゴールキーパー、ノイヤー すげーっ!』『コスタリカGKのナバスも同じ位すごい!』と血が騒ぐ程度で、世間はすっかり落ち着いてしまったかに見えます。

 そこでサッカー関係の落穂拾い的記事は適宜、Facebookページ「リアルタイムCRM」(2010年に開設したメタデータ社のページ)に掲載するとして、今回のこの前文を最後に、通常連載に戻りたいと思います。

・サッカー関係の落穂拾い的記事
「ツイッター社自身によるハッシュタグ #ワールドカップ のまとめページ」
「応援するチームの国旗を選んで選手や監督をフォローして盛り上がるサービス」

※一気に100人近くフォローしてしまい、W杯終了後「困ったな…」と密かに思われたとき頼れるツール、justunfollowなども紹介しています。よろしければ、“リアルタイムCRM”に「いいね」してやってください。リンク付きのサマリーは、ツイッターアカウント @metadata_inc でも読むことができます。

 ドイツ、ブラジル、オランダ、アルゼンチンのベスト4決定時点で、ハッシュタグ#WorldCupを含むツイートで印象的だったのは下記の集計です。今回の戦績に見られるように、現在のサッカーは欧州と南米の2大陸が強く、特にプロのクラブチームではドイツ、イギリス、スペイン、イタリアをはじめとする欧州が圧倒的に強い選手を抱えていることを如実に物語っていると言えるでしょう。こんな集計も生データの迫力・説得力の一種と言ってよいのではないでしょうか。
@knottystop W杯ベスト4に残った国の所属クラブ別人数
<9名>バイエルン(独)
<5名>フェイエノールト(蘭)、チェルシー(英)
<4名>バルセロナ(西)、マンチェスターシティ(英)、ドルトムント(独)、インテル(伊)
<3名>アーセナル(英)、レアルマドリード(西)、パリ・サンジェルマン(PSG・仏)、シャルケ(独)、ナポリ(伊)、アヤックス(蘭)

有意な仮説の着想と検証に「統計学」では限界

 前回記事・「生データを踏まえた記事の迫力」、前々回記事・「大量の生データから意外な事実が分かった件」
に象徴されるように、生データの迫力や、発見を誘発する力はどこから生まれるのでしょうか?

 特に、少々乱暴な感覚的な結論(「前半、終始押されていた“感じ”」など)や、どうしても検証したい・証拠を見たいと思っていた仮説について、従来よりケタ違いに大きな生データを集計したものが検証を可能にしてくれれば、まさに非常に強力な説得力を持つでしょう。現場の人が何となく感じていた「予断」のようなものでさえ、それらが証明されること、あるいは覆されるのを待っているわけです。

 パラメーターが多数に上り、その値も数百、数千、数万のバリエーションを持っていると、その組み合わせを総当たりすればあっという間に数百万、数億以上の仮説の元が出てきます。それらを統計処理でしらみつぶしにするのも良いですが、果たしてそれが優れた分析に結びつくでしょうか? No(否)と思います。それはいくらビッグデータといっても、本当に99.9%の有意性で結論づけられるほどの網羅性は通常望めないからです。

 例えば、口コミに出てくるトピックやテーマの出現頻度について何か結論を出すことを考えてみましょう。思い切り単純化し、2つの言葉の組み合わせでテーマが語られるとして、10数万の基本語彙、そして数百万、数千万は使われている固有名詞、複合語の類を組み合わせただけで軽く数億〜数10億種類の組み合わせが出てきます。それらが十分多数回出現して、使用頻度に差が出てくるグラフを描くには、高頻度の言葉の組み合わせが数億回出てくる水準までデータ量を「超ビッグ」にして、やっと正しい、揺れないデータが取れるのかなと思います。これがやや悲観的にせよ、まだまだ楽観的にせよ、天文学的スケールを超えたデータ量になります。

 数10億×数億といえば10の18乗という数。新聞1年分が10万記事程度で、1記事が平均10文とすればわずか100万文ですから、新聞記事なら10の12乗(1兆)年分が必要です。このような収集は事実上不可能。集めている間に、数百年程度で言葉の使い方が大幅に変化していってしまうどころか、残り50億年という太陽系の寿命をも遥かに超えてしまいます。もっとも、1億人が毎日書き、話す日本語をすべて取得できればもっと早いし、使用頻度のデータとしては文字通り十分ではあるわけですが。

 ただし、仮にすべての日本語をリアルタイムで収集、分析できても(ちょっと嫌な社会ですね)、昨日今日以前の過去のデータに過ぎません。明日以降はどんな出来事が起きて、どんな言葉の組み合わせが多く(少なく)語られるかという予測には不十分とも言えます。

 このように、有限の装置、材料(単語など)によって無限の発話のバリエーションを生み出せる「言語」を相手に、統計学が全自動で仮説を抽出、発見してくれるものでしょうか? 無理でしょう。

 何の構造モデルも持たず、結論に近い仮説も持ち合わせていなければ、有意な仮説の検証をすることはできません。何か言葉で表現するしかない対象については、少なくとも当面は人間が、鋭い洞察力を駆使して仮説立案と検証をしていくことになるでしょう(脳内の知識の構造は非常に洗練され、かつ2単語の組み合わせに留まらない膨大な使用パターンの情報を持っています)。

 あらかじめ有意差が生まれるパターンの情報があり、その検証方法について仮説を立ててから解析、分析に取り組むことで、有用な発見・検証にたどり着くものと思われます。これは、単純なデータの集計とは著しく違います。

 前々回、前回、そして上述の「単なる集計だけで興味深い」対象を選んだ際にも、どの分類軸で、どんなデータをどう集計したら面白い発見があるか(あるいは現場の感覚を定量的に検証できるか)の予想があったからこそ、首尾よく面白い結果を出せるのではないでしょうか。

何でも「ビッグデータ用ツール」でなくてもいい

 少し視点を変えて、従来のスモールデータの運用、すなわち厳選された社内データを規格・仕様通りにきれいにデータベースシステムに収納し、検索、参照、管理する世界と、ビッグデータ的なツール・手法を対比してみましょう。

 スモールデータ用のツール・手法の具体例については、データウェアハウス(DWH)や、最近ではマスター・データ・マネジメント(MDM)などのキーワードでたくさんの商用製品やサービスがヒットしますので、そちらをご照会ください。

 ここでは様々なツールや手法があるとして、そのすべてがビッグデータ用に使えるのか、そして、使うべきかを考えてみます。下の図のように、多種多数の七徳ナイフやコンパスを駆使し、組み合わせて、データ整備と分析の流れをスモールデータの世界で組んでいたとしましょう。

 HadoopやMapreduceなどのビッグデータ解析向けの専用ツールは確かに、汎用のデータベースシステム、逐次処理のデータ処理プログラムほどの汎用性は持ちません。並列処理をスムーズに行って、どこかでうまく合流させるために様々な制約があります。また、道具の世界で必ずしも「大は小を兼ねない」ように、小規模のきれいなデータを扱うことはかえって苦手だったりもします。

「ビッグ」を解析した後で「スモール」を分析すればOK?

 以前お話ししたかと思いますが、「これこれ以上のデータ量ならビッグデータ」という客観的定義は通常、存在しません。私が好きな定義は、「(その状況、条件で)人間の手に負えないデータ量ならビッグデータ」というものです。

 では、現場には両者が存在するとして、ビッグデータ用のツール・手法と、スモールデータ用のツール・手法をどう組み合わせて使ったらよいでしょうか? 

 素直に考えれば、ビッグデータの集計、解析の結果「スモール」になったデータを、スモールデータ用のツールで精緻に分析すれば良いじゃないか、となるでしょう。

 それを描いてみたのが上の図です。大きな漏斗がビッグデータ用で、その下の小さな漏斗がスモールデータ用。小さな漏斗の上に「i」とあるのは、厳選、吟味され、組織の死命を制するような情報「intelligence」の頭文字とでも解釈ください。

 でも、これでは少し単純化し過ぎのようにも思えてきます。1つ前の図と説明をご覧になると、「あれ? そもそもビッグデータ用のツールでは、全部の生データを処理しきれなかったんじゃなかったっけ?」と思い出します。

 その点を描き加えてみたのが上の図です。下方には5種類の漏斗があって、いろんな種類のデータを各々処理し、違う形で吐き出したり、集約したり、通知したり、配信したりしているイメージ図となっています。入口も、必ずしもビッグデータ解析用の漏斗から出てきたデータだけを扱っているわけではありません。人手でコントロールした別種のデータや、もともとスモールデータだったものも一緒に加えることで、現場の業務フローにおけるデータの流れのモデルを作っています。

 このようなイメージをあらかじめ持っておけば、最新のビッグデータ用ツール群ですべての種類のデータを一様に1つのシステムで扱わねばならないのではないか、とか、その方が効率や費用対効果が高いのではという不安を拭い去ることができるでしょう。

 極論するなら、紙と鉛筆による考察さえもツール群に混ぜておくべきです。実際、ブルーオーシャンを見つけるための経営ツールであるポジショニングマップや、発想のツールであるマインドマップなどについては手書きが奨励されていることをお聞き及びの方も多いかと存じます。

「発見」までのあと一歩を支援するシステム

 ダベンポート教授は、ビッグデータ活用のゴールを「発見」と「業務化」に分類しました。前節の図は、「業務化」をイメージしたものと捉えていただいて結構です。「発見」については、本稿では「発見」と「仮説の(定量的)検証」とに分けて、どちらも等しく重要としています。

 これらのどちらがより難しいかといえば、言葉面の印象通り「発見」の方だろう、という主張に反論する人は少ないかと思います。単に難しいというより、属人性が高い。すなわち分析担当者によってできたりできなかったり、目の前にあるものをそのまま述べた月並みで陳腐な程度に留まったり、天才的な洞察による業界初の大発見ができたり、といったように差が大きくなるものと言えるでしょう。

 では、この属人性を軽減し、誰でもほぼ必ず一定水準以上の面白い発見を得られるようにするために、システムはどのような支援が出来るでしょうか?

 ここで、前々回ご説明したなでしこジャパンのロンドン五輪の試合中のつぶやきを感情解析したグラフを再掲します。


 小鳥のアイコンの右に記したツイート群を感情解析した折れ線グラフが、4本中央に描かれています。さらに、オレンジ色と青色の吹き出しの中には試合中の出来事、事実が淡々と記入されています。この時は、パッケージ製品ではなく、個別リサーチ用に特別に用意したシステムでしたが、今後この吹き出し内容のような外部データ、異種コンテンツと解析結果を並べ、重ね合わせ表示する機能を標準装備する作業を進めています。なぜなら、時間軸という共通軸を用いて、同じ出来事を眺めている人々のつぶやきと、その出来事の内容、属性には本来、因果関係が存在するものであるからです。

 人工知能ではないので、「なぜそうなったのか?」を推論する機能が汎用的に使えるのはまだまだ先のこと。でも、この最後の「なぜ?」という因果関係に気づくという高級な役割こそ、分析官という人に任せれば良いではないですか。そして、何もないところから何かを発想できるような能力には確かに個人差が大きいでしょうが、このように、因果関係が本来含まれていてしかるべき異種データを、時間軸上に結びつけて見せるだけで新鮮な景観が見えてくる。あと一歩考えを進めるだけで、発見が生まれます。

 例えば、右下部分を見て、「ぎゃぁぁ!」「あああ、やられた!」「いやー、やられた!」などのつぶやきのすぐ近くに、「【後半10分】カナダにシュートを決められる」とあった時に、その因果関係を読み取れない人はほとんどいないでしょう。しかし、グラフに目を移して、その際の感情の動きがネガティブに振れるだけでなく、一部の感情がポジティブに振れた(怒り・怖れの類のネガティブが減った)、ということまで素直に読み取れば、それは「発見」です。相手にゴールを決められても、自国選手を罵る、嘲る、といった発言は出てこないという、ある意味、意外な分析を行うことができます。

 このあたり、100%誰でも発見ができるとまでは保証できなくとも、99%の発見率に近づけるような分析マニュアルを作ることは十分可能でしょう。※実はメタデータ社では、そのような分析マニュアルを既に創造し保有しています。

 以上、やや抽象化した議論となったため、イメージ図を多用したりしました。また最後に具体例を追求した結果、再びサッカーの試合を分析した例に戻ってきてしまいました。なかなか最先端の分析論、今後あるべきツールの要求仕様を語るのは難しい、ということで、今後も時々サッカーの話を出すかもしれませんが、引き続きご容赦、ご笑覧いただけたら幸いです。

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